「うさぎは不吉じゃ。それも、片耳となればもういけない。お屋敷に、けっして入れてはいけないよ。入れれば人が殺される」
「片耳うさぎ」大崎梢 光文社文庫
事業に失敗した父のせいで、父の実家であるとんでもなく古い屋敷で暮らすことになった、小学六年生の奈都。とはいえ、父は仕事で不在、母はもう片方のおばあちゃんの具合が悪くなって出かけてしまい、この大きな屋敷に、奈都はひとりきりで残されることになってしまった。……もちろん、正確には、気むずかしい祖父や、どうも奈都のことを嫌っているらしい大伯母、年上の従兄など、屋敷の中で暮らす人たちは他にもいる。けれど、彼らが奈都のことを気にかけてくれるかといえば、そうではないのだ。部屋数がいくつあるのかも、どんな風になっているのかもわからない不気味な屋敷で、一人で寝ることを考えただけでも泣きたくなってしまう。そんな奈都の苦難を見かねて、隣の席に座っている男の子、祐太が「ねえちゃんに相談してみる?」と声をかけてくれた。中学三年生、黙っていれば誰もが振り返るような美少女でありながら、大きくて古いお屋敷や怖いものが大好きで、数々の突拍子もない逸話の持ち主であるというさゆり――けれど、誰もいてくれないよりは、さゆりがいてくれたほうが。奈都はさゆりを屋敷に招待するが、その夜から、さゆりは張り切って隠し階段、隠し部屋を探しはじめた。
おとなにとってはなんでもないようなところでも、小学生にとっては怖くて怖くてたまらない場所、ということもある。夜中にトイレにいくのだって、ひとりじゃ無理。しかも、その上、この屋敷には「片耳うさぎ」に関する、不吉な言い伝えがあるというのだ。入ってはならない者が屋敷に入りこむと、誰かが死ぬ。実際に過去にあった出来事だというが、それがいまなお引きずられているのは、いったいなぜか?
可愛らしい、けれどしっかりしたミステリー。主人公が小学生ということで、最初は子ども向けミステリーかと敬遠していたが、実際に読み始めると、すらすら読めたし、面白かった。さすが、大崎梢。
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