……自分の体の中には既にもう手紙と写真を送って来た、女達の考えや言葉が入りこんでいる。個人個人がなかなか特定出来ない程、体の中でそれは団子になっている。
「説教師カニバットと百人の危ない美女」 笙野頼子 河出書房新社
「私」は小説家八百木千本、決して笙野頼子ではない。八百本の木が千本あるという程度には嘘をつく。デビュー後いくつかの賞をとり、微かなブームが去った後には、静かな一カルト作家に留まっている。決して売れてはいないが、自らがブスであることをネタにした小説が、一部の読者の心を惹き付けてやまない……そんな作家。
そんな八百木千本はいま、「巣鴨こばと会残党」またの名をカニバット親衛隊という百人の「美女」のゾンビに悩まされていた。巣鴨こばと会はファクシミリを使って、八百木を苦しめる。朝から晩まで、千切っても千切っても送られてくる異様な手紙の数々。そこにはブスを売り物にし、結婚できずにいるのに開き直っている八百木を批難し、カニバットの教えに従って男に尽くし、結婚を理想とする「巣鴨こばと会」の会員が、いかに悪魔ドク朗を永遠の伴侶として求めているのかということが切々と綴られていた。
物語は、八百木千本の日常(?)と巣鴨こばと会残党からの手紙から構成され、説教師カニバット、そして巣鴨こばと会残党が永遠の伴侶として求める悪魔ドク朗とはいかなる人物なのか、ということが語られる。
――うまく説明できません、おもしろすぎ。
説教師カニバットの人物造型(?)が飛びぬけているし、その彼が書いたという本のタイトル(と中身)もおもしろいが、八百木千本というキャラクターがなによりおもしろすぎる。ブスであることに酔った八百木が「歌」った約50行ほどの文章をここにすべて引用できないのは残念である(しかも、その文章の前には、「注意」として、ブスへの攻撃等に用いてはならないことが厳禁されている)。
文学について、とか、女性の容貌について、結婚する女、しない女、社会の中の女性……とか、深いことを考えればいっぱいあるんだろうし、考えも出来るんだろうけど、なにより小説としておもしろい!! すごいです。読まなければ損をします(断言)。
なお、続編にあたる「絶叫師タコグルメと百人の「普通」の男」もおススメ。こちらは、「知と感性の野党労働者会議」、略して「知感野労」、簡単にいってしまえばオタクのような男たちによって統治(?)されるようになった国で、美少女のパーツにさせられそうな八百木千本の異様な日々を描いた作品。これもまた……なんというのでしょう。幼稚な男たちが闊歩するのが当然になってしまった現代を皮肉ったという観点で読むおもしろさもありますが、やっぱりなんといっても小説としておもしろい。
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