かつら落下
「回文堂」かわいしのぶ 新潮文庫
世の中にはどういうわけか、この「回文」をやけに知っている人がいる。その昔、
「はい、なにか長い回文を知ってるかな」なんて質問を中学1年生にしたわたしは、
「はいはいはいはいはい!」という挙手の嵐に内心めげそうになったことがある。しかもそれはそのうち、自分たちがどれだけ多くの回文を知っているか、という競争にもなってゆき、最終的にある一人の子が次から次に止めようもないほどに回文を口にしてチャンピオンの座を射止めるにいたって、わたしは茫然とし、次にうっすらとした恐怖すらおぼえた。この回文にむける情熱。なんなんだ、これは。
さて、かわいしのぶの回文は、そんな、恐怖心すらおぼえるような長文回文などではない。むしろ、おばか回文とでもいおうか……脱力しそうなイラストとあいまって、実に安心できる作りになっている。
第一、この意味不明な回文を見よ。
「試しに絞めた」なんてのはまだいいほうで、
「ミミズ出す耳」
「ミスター片隅」
「とびとびの人々」
などなどにいたっては、たしかに回文にはなってるけど、意味あるのかコレ? と、気の短い人なら逆ギレしちゃいそうである。
でも、そこがいいのだ。イラストによってイミのない日本語が、ちゃんと意味あるものとして補強もされているし(?)。とにかく頭を使わずに読める一冊。自分では買わなくても、他人にプレゼントするとおもしろいかも。
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