「唯一の結論は――」
「結論は?」
「君が犯人である、ということだ」
「本気ですか?」
           
     「密室の鍵貸します」東川篤哉 光文社文庫

 ちなみにこの会話はこう続く。
「いや、それなら楽だと思っただけだ」
 さて、烏賊川市という関東某県にある三流大学の映画学科に通う貧乏学生、戸村流平。先輩の伝手を頼ってこぢんまりした映像製作会社に早々に就職を決めたのはいいが、夢のない男に未来はないと、付き合っていた彼女、紺野由紀にあっさりと振られてしまう。とはいえ、振られた痛手なんて大したことないさと、就職を世話してくれた先輩、茂呂の家で一緒に映画鑑賞を楽しんでいた流平だが、なんとその夜、由紀が殺され、さらには気づいてみると、密室であるはずの茂呂の家で、茂呂自身までが死んでしまう。一番疑わしいのは、なんといっても自分自身。自らの嫌疑を晴らすため、流平は警察ではなく、姉の元夫で私立探偵の鵜飼に謎解きを依頼するが……
 砂川警部と志木刑事というふたりの警察関係者のとぼけっぷり、ひょうひょうとしていて何考えているんだかわからないような探偵の鵜飼と、それにひっぱりまわされる流平。しかしながら、すべての出来事は流平さえ最初からちゃんとしていれば発生しなかったような……登場人物全員がハタ迷惑でちゃらんぽらん。それでいて密室という本格ミステリの落とし所はきっちり押さえているという、ある意味すごいミステリ。
 この人の作品は、読めば読むほど、バカらしさがクセになるというか……ボケとツッコミ、というか、ボケしかないような会話にはまります。



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