さて、敵はどう出てくるか。友希江は、自分の口元が緩むのを感じた。
                  
 「かび」 山本甲士  小学館

 伊崎友希江は、大手企業ヤサカの研究員である夫、文則と幼稚園生の娘理沙と暮らす平凡な主婦。義母のお節介や孫への甘やかしにイライラし、幼稚園では他のお母さんたちとの微妙な距離をはかりながら、波風の立たぬように暮らしている。しかし、そんな生活が一変するのは、夫の文則が脳卒中で倒れてからだった。若くして一家の大黒柱がぐらついた上、ヤサカは体よく夫をリストラしようとしているらしい。だが、そんなことになったら家族三人、路頭に迷うだけだ。それまで押さえつけてきた怒りや恨み、そういった暗いエネルギーが友希江を駆り立て、ヤサカを狙った陰険ないやがらせが始まる。
 律儀でいい人からのオススメ本。
 ……いや、ここまで読書の趣味があわないと、なんていうかいっそわかりやすくてよい。
 とにかく、主人公がいやな女なのである。いやがらせも悪質だし、それがどんどんエスカレートしていく。本人は正義の戦いをしているつもりだし、戦いによって強くなった自分に慢心していくのだが、その過程がなんともいやらしい。読み手にそういう不快感を与えるという意味では成功した小説だといえるのだが……好き嫌いがあると思う。
 わたしがこの本の話をしたら、「そういう話大好き! 読みたい!」といった人が二人ほどいた。「OUTとか、そういう陰険なことする女の話が好き」だという。だからまあ、そういう人にはオススメである。
 わたし個人についていえば……わたしは甘いといわれようと、すがすがしい人が出てくる話が好きです。人間ってやっぱりいいよね、と思わせてくれるような。今度はそんな話をススメてね>律儀でいい人



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