「どうして天は、そんな砥尚に天命を下されたの」
                         「華胥」(「華胥の幽夢」所収)小野不由美 講談社

才州国の宝重、華胥華朶。宝玉でできた桃の枝、それを枕辺に差して眠れば花開き、理想の世の夢を見せてくれるという。新王、砥尚が采麟に華胥の夢を見せてあげようと約束してから二十余年が過ぎた。王になる以前から信望厚く、将来を期待されていた砥尚の世が、まさかこんなにも早く崩壊していくとは。しかも砥尚は誠心誠意、国のために尽くそうとし、放埓に耽ることも、暴虐非道な政治をすることもない。なのに采麟は病み衰え、国土は日に日に荒れてゆくのだ。いったいなぜ……?
十二国記シリーズ短編集。陽子、泰麒をはじめ、さまざまな懐かしい顔ぶれが登場するが、芳国の月渓など、これまで主に祥瓊の視点でしか語れていなかった人物なども描かれていて興味深い。そういう意味では、みずからの望みというよりは国のため、民のために王を討ち、みずから大逆者となった月渓の心のうちを描いた「乗月」の雰囲気や物語性が秀逸だと思われるが……この世界そのもののシステマティックぶりが突きつけられる、世界の根幹にかかわる問題があると感じられるという点で、「華胥」が表題にも出てくることになっているのだと思う。しかも続く物語が「帰山」……六百年に渡る治世を誇る奏国であることも皮肉。
麒麟はどのようにして王を選ぶのか。天命とはいったいどのようなものなのか。どうして国は栄えたままではいられず、滅んでしまうのか。十二国記最大の謎がおそらくここにはある。




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