「おれ達は生まれたから生きてるんです。生きることをやめるわけにはいかないから、必死で生きてる。おれ達だって嫌なんですよ。おれ達には他人の理屈がよく理解できないし、そういう他人の作った世界は気味が悪い。でも、いまさらリタイアするわけにはいかないから――」
「魔性の子」 小野不由美 新潮社
教育実習生として母校に戻った広瀬は、そこで不思議な生徒と出会う。特別醜いわけでも、特別鮮やかなわけでもない。彼のほうからとりたてて他者を拒絶しているようにも見えない。けれど確実に浮いている。いじめられているようでもないのに、遠巻きにされている。幼いときに神隠しにあった彼をいじめると祟られるのだと――その噂を耳にした時には、すでに彼のことをからかいの種にした生徒が怪我をし、それに続いて次々と凄惨な事件が起こる。その生徒、高里は本当になにか特殊な力を持っているのだろうか? 彼とかかわるうちに、広瀬は自分の中にも抑えがたくあったこの世界に対する違和感、自分は……自分たちは故郷喪失者なのだという思いを強く抱き始める。周囲の者たちによって加熱する高里への憎しみ。そして高里の周囲に見える白い手。き、と呼ばれる何かを探している幽霊譚……そのすべてが破滅に向かって転がり落ちようとしている。高里は救われるのか。そして、広瀬は。
「黄昏の岸、暁の天」の裏バージョンといってもよいこの物語では、麒麟としての記憶を失ってしまった泰麒を守ろうとするあまりに使令たちが暴走し、それによって泰麒が穢れてしまうがためにまた使令たちが暴走、という悪循環が、蓬莱国……つまり現代日本という社会ではどのようになってしまうのか、ということを描いたホラー作品になっている。十二国記のファンタジー調とはがらりと趣を変え、凄惨なシーンがいくつかあるので、ホラーが苦手な人は要注意。
それにしても。「黄昏の岸、暁の天」を読んだものとしてネタばれに近いことを書くが、世界になじめない違和感を感じていたのは麒麟だったから……というオチのつく泰麒はよい。だが、そんな泰麒=高里と接することで「おれ達」は故郷を喪失している、どこにも帰れない、と思っていた広瀬はあまりにも哀れだ。泰麒が無事に故郷へ戻った後、残された広瀬はどうなるのだろうか。そういうことを考えながら読み進めていくと、なんだかひどく胸が痛むし、終章などは読むのもつらい。小野不由美ってときどき救いのないオチを書くよなあ……
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