尭天の王に伝えてやりたい。景王が実際に、清秀を治してやれたかどうか、それは祥瓊にも分からない。……ただ。
――これほどにも、あなたは人々の希望の全てなのだ、と。
「風の万里、黎明の空」小野不由美 講談社
貧しさゆえに売られていく、その道の途中で崖から落ちた鈴が放り出されたのは、言葉さえ通じない国。意味不明の言葉で話しかけられ、帰る道さえわからない。泣いてばかりの鈴は、才州国の先々代の王の愛妾、梨耀のもとで最下級の下女として暮らすこととなった。梨耀のおかげで仙となった鈴には言葉の問題はなくなったが、それでも最下級の暮らしには耐えきれず、故郷を思って泣く毎日。そんなある日、遠く慶の国で登極した景王が同じ蓬莱国からの海客と知り、鈴は景王に会うことを夢見はじめる。
一方、何不自由のない暮らしをしていた芳国公主、祥瓊は目の前で王である父と母を殺され、仙籍を剥奪されたうえで、孤児や老人のためにある里家に送り込まれていた。貧しい暮らしというだけでなく、公主であることが知られ、父王の非道の仕返しにと虐げられる日々。そして祥瓊もまた、景王が自分とそう年の変わらない少女であることを知る。かつて自分が持っていた、持ち続けていたはずの暮らしを難なく手に入れた相手への憎悪を抑えきれない祥瓊。
鈴と祥瓊はそれぞれの思いを胸に、景王に会うための旅を始めるが、その相手、景王となった陽子は、思うままにならない日々に苦戦していた。言葉はわかるが字が読めない。政治の成り立ちがわからない。民の真実の姿が見えてこない。溜息ばかりつく景麒の顔色をうかがうことにも飽いた。陽子は思い切って町へと飛び出していくことにする。
荒れ果てた慶の国で権勢を思うがままにしていた者たちと、彼らを倒すべく立ち上がった者たち。いつしか鈴も祥瓊も、そして陽子までもが巻き込まれ、民を守るために立ち上がる。いま自分ができることは何か。王とは、そして国とはどうあるべきなのか……――
十二国記シリーズ第一弾で登場した陽子のその後。フツウの女子高生がそう簡単に王になれるわけでもなく、周囲のだれを信じていいのかさえわからないという状況がつらい(とはいえ、陽子の変貌ぶりは激しい。登場当初、ここまで侠気のある人物になるとはだれが想像したろうか)。
それにしても麒麟は本来、王のそばにいられれば無条件で嬉しいらしいのだが、景麒に限ってはほんとに麒麟の性を持っているのかすこぶる不思議である(笑)。
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