「ぼくはキリンじゃないかもしれない」
「風の海 迷宮の岸」 小野不由美 講談社
蓬山の捨身木に実った麒麟、泰麒は、蝕に巻き込まれて遠く蓬莱国まで運ばれ、そこで生まれ育った。祖母に疎まれ、母に泣かれ、自分のどこが悪いのだろうと己を責めるばかりだった幼い少年が蓬山に戻ったときには、十年もの月日が流れていた。泰麒を待ち望んでいた女仙たちの期待は大きいが、彼にはそれに応える自信も、そもそも己が麒麟であるという確信すらなかった。本性を顕す転変の術もなく、使令をどう下せば良いのかも知らない。そもそも、王を選ぶための王気が何なのかさえわからないのだ。しかし葛藤の日々もむなしく、泰麒は蓬山にのぼってきた人々の中から王を選ばねばならなくなる。はたして自分は、本当に天啓を受け、王を選ぶことができるのだろうか……?
十二国記シリーズ第二弾。前作でも顔を出した景麒や延王といった人々も顔を出すが、基本的には幼い麒麟、泰麒が自らの存在を確信していく物語となっている。小野不由美という人は情けない、自信のないキャラを描かせると上手い、と思っているのだが、これが女性であると捻くれたり、自信喪失が転じて厭味なやつになったりするが、泰麒はまだ幼い少年のせいか、とにかくひたすらに可愛い。あの景麒でさえ(というといい方がなにか変だが)、泰麒の愛らしさには思わず優しさを見せるほどである。
陽子のように普通の女子高生から王にされてしまったほうも大変だが、普通の小学生から突然麒麟としての責務を負わされてしまう方が苦労は大きいかもしれない。
ところでこの泰麒、1作目の中では行方不明となっていたが……いったいどうしてしまったのか。やはりこのシリーズ、この先が楽しみである。
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