いつも下界を見ていた。荒廃なんか見たくない、と言いながら、いつか下界が花で覆われる日を待ち望んでいた――
                   
    「丕緒の鳥」小野不由美  yom yom vol.6(新潮社)

 慶国の首都、堯天で羅氏を務める丕緒は、新王のための祭礼で行う射儀について射氏から相談された。だが、かつては楽を奏で、色とりどりに散るようにと趣向を凝らしたこともあった陶鵲に、いまの丕緒は前向きな感情を持つことができなかった。王は変節する。慶国では女王が続いたこの時代、国は荒れ、民は苦しむばかりだった。そんなときに行われる射儀――射られ、粉々に砕かれる陶鵲こそは民そのものではないか。射抜かれて落ちる鵲に民を感じてもらうことこそが、羅氏である自分の真の務めではないのか。だが、丕緒のその思いが王に通じることは滅多になく、通じたとしても不快感を持たれるだけだった。真の思いが、願いが通じることなどない。おそらく、新王とて同じことだ。それでもなんとか射儀の準備に取り掛かろうとした丕緒だが、すでに自分の中には何も残っていないことに気づいてしまう。だが、それゆえに知った、かつての同僚の想いとは――
 十二国記シリーズ番外編。陽子が新王として行ったはじめての儀式の、その裏側にいた人物に光をあてた物語。表舞台にいる人々だけではなく、このように裏方でいる人もしっかり書かれているのが十二国記のおもしろさの秘訣でもあるのかもしれない。
 今回は救いのない思いに苦しんできた人が、最後に少しだけ明るさを感じる…という意味で、珍しく救いのある物語。これが文庫本とかに落ちるのはいつでしょうね。読みたい人は、yom yom をぜひ。



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