「言い訳をしないで黙っちゃうと、格好はつくかもしんないけど、誤解されるぞ」
「勝手に誤解すればいいだろ、俺はいつもそうやってきたんだから」
「でも誤解されてもいい奴と嫌な奴がいるだろ。俺は哲也に俺のこと誤解して欲しくはないよ」
「そんなクサイ台詞、良く言えるな」
「呪禁官」牧野修 祥伝社
科学とオカルトが微妙に入れ違った世界で、葉車創作、通称ギアは殉職した父の遺志を継ぎ、呪禁官になるべく養成学校で訓練に励んでいた。とはいえ、上級生にいびられ、ろくでもない仲間たちに囲まれ、ギアの生活はしっちゃかめっちゃか。
そのころ、世の中では「I・M革命」(インダストリアル・マジック:工業魔術)などという本が流行し、科学を口にするものは厄介者扱いされていた。「呪術」が政治的にも経済的にも重要視され、これまでの仕返しとばかりに科学者たちを嘲笑するようになったからだ。理系の大学を出て電子機器メーカーに勤めた米澤は、そんな社会の波の中で失業者となり絶望の中で焼身自殺を図った末、科学結社<ガリレオ>に助けられ、サイボーグとして復活する。<ガリレオ>の狙いは呪術廃絶、科学復活のためのテロである。そして一方、オカルト界にも不死者とされる蓮見という青年が現れ、世界を支配する呪具を収集するために動き出していた。違法呪的行為を取り締まる呪禁官たちに、彼らを阻止することはできるのか。世界の命運を左右する魔の手は、思いがけず養成学校のギアたちにまで伸びてくる――
とにかくおもしろい。世界のつくりがしっかりしている上に、少年たちの友情と成長というジュブナイルの基本もきっちりおさえられている。いちおしどころか、ふたおしくらいしちゃおう。騙されたと思って読んでみてください。続編(とはいえ、独立しても読める)「ルーキー」もいける。引用した台詞からもわかるように、ツッコミどころは登場人物たちによっても指摘されていて、そういうちょっとひねた部分もまたよし。まじめにバカなことをしているところも突き抜けててよい。
思うに、このおもしろさは科学とオカルトが「微妙に」入れかわっているところにもある。たとえば、これまではオカルト的力を発現させる無数のシステムがあったため、魔術師は霊的資質を持ち、それぞれヘブライ語やら梵語やらを用いなければならなかった。ところが、共通のシステムが発見されたことで、魔術の大量生産化を可能となる。これがIM革命だが、この誰にでも使える魔術、統一呪的言語規格が笑えるのだ。なにせ、「統一」された言語なので
「終わりましょう。静まってください。なぜなら自然だからですね。ハレルヤハレルヤ」
などという、緊張感のないバカっぽい聖句となってしまうのだから。
オカルト的な世界で、科学の塊のようなサイボーグ人間となってしまった米澤。「ルーキー」では彼の意外なその後が見られるのも楽しみだ。さあ、ぜひ読んでみてください!
(とかいって、ここまでススメておいて「つまらなかった」とかいわれたらショックだなあ……ま、好みってことで。いままでわたしがススメた本はけっこういけたな、って思った人は、ぜひ、ってことくらいにしておこうかな)
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