事態はどんどん過激な方へころがっていく。なぜだ。どうしてこんな羽目に陥ったのだ。なぜ、おれがヤクザの組事務所に殴り込まなければならないのだ。
「迅雷」黒川博行 文春文庫
金屑を集めて売るダライコ屋をしていた友永は、交通事故で入院した先で当たり屋の稲垣と出会う。パチンコ屋で不正を働き、それをネタに因縁をつけられれば、逆に因縁をつけ返すという押しの強さがウリの稲垣。強引で大胆な稲垣の口車に乗せられ、友永は稲垣と相棒のケンと組んで、ヤクザの誘拐というとんでもない計画に引き込まれてしまう。
「堅気が極道をさらう」。あり得ない状況だからこそ、警察の介入はなく、面子にこだわる極道が大掛かりな反撃をしてくるはずもない――はずだった。ところが二人目のターゲット緋野もまた、一筋縄ではいかないヤクザだった。裏の裏を読み、追いつ追われつ、金と命をかけた大勝負が始まった。
おもしろい。
稲垣がいうように、確かにあり得ない状況である。まさかヤクザが「誘拐されました……」と警察に泣きつけるはずもないのだから、金と人質の受け渡しに関しては、すべて互いの力を出し切った知恵比べ。第三者が介入してこないだけに直接的でスリリングだし、どちらかといえば堅気である友永たちのほうが組織としての戦力に欠ける分、むしろ弱い。この絶妙なバランスがなんともいえないのだ。
一応はまともな市民だった友永が、なぜこんなことに……と内心で頭をかきむしりながら、坂道を転げ落ちるように暴走していく状況に巻き込まれていくさまがなんともいえない。思わずニヤリとしてしまう最終ページまで、ぜひ一息に読んでもらいたい。
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