「話して? どう? ……パワーを感じた? うれしかった? たとえ、ほんのちょっとの間でも?」
「危険ないとこ」ナンシー・ワーリン(越智道雄訳) 評論社
あやまって恋人のエミリーを殺してしまった過去を持つ「ぼく」、デイヴィッドは、二度めの高校三年生を、自宅から離れたケンブリッジにある伯父の家で過ごすことになった。裁判では無罪の評決が出たとはいえ、凄腕の刑事弁護士を父に持つデイヴィッドに向けられる視線はまだまだ冷たかったからだ。だが、新聞に大きく出た事件を知らない者などなく、新しい学校でもデイヴィッドは好奇の視線にさらされる。しかも、居候することになった伯父の家でも到底歓迎されているようには思えない。特にデイヴィッドを敵視したのは、いとこにあたる十一歳の少女リリー。四年前、リリーの姉キャシーが自殺してから、伯父の家族も静かに荒廃していっているようなのだ。壊れかけた家族の中にいるリリーを心配するデイヴィッドだが、リリーはそんな彼を敵視し、ついにはとんでもないいたずらを仕掛けてくる。
新しい場所に来たからといって、新しい自分になれるわけではない。両親の願いとは逆に、デイヴィッドは自分を罰することをやめないし、恋人のエミリーとのやりとりを何度も反芻しては、罪悪感を深めている。そんなデイヴィッドだからこそ、リリーの持つ秘密に気づき、リリーもまた、デイヴィッドに苛立ちや嫌悪、共感を覚えずにはいられないのだ。
物語はデイヴィッドとリリーの暮らす家庭でのできごとの他、デイヴィッドが新たに通うことになった学校生活、そしてデイヴィッドにだけ聞こえる不思議な声……などを中心に進められる。罪悪感いっぱいの十代後半の少年の一人称ということで、暗い雰囲気はあるのだが、それでも「Xファイル」のマニアで、モルダーが論理的か非論理的かを熱く語ったり、ふと垣間見えるふつうの十代らしさなどもよい。
リリーの犯罪はどのように決着がつけられるのか。1999年のエドガー・アラン・ポー賞受賞作品。ヤングアダルト小説だが、かなりきちんとしたサスペンスに仕上がっている。
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