この先では、不穏当かつ非倫理的な出来事が発生し得ます。
それでも良いという方のみ、この先にお進みください。
「インシテミル」 米澤穂信 文藝春秋
求人誌に掲載されていた、まるで誤植かと思うような時給の「実験」。モニターとなれば、時給は11万2千円。あるものは冗談だと思い、あるものは波乱を期待して、そして主人公となる結城理久彦は車がほしくて、応募した。12人のモニターが集められたのは、地下に造られた施設、暗鬼館。人を殺せば犯人としての報酬は二倍。犯人を指摘する探偵となれば報酬は三倍。各人の部屋には、個人のカードキーでしか開くことのできないおもちゃ箱に、それぞれ凶器となるなにかが収められている。といっても、全員が無事に規定の7日間を過ごせば、これまで見たことのないほどの報酬が手に入るのだ。誰があえて危険を冒してまで殺人など。
と思っていた三日め、一番の年配だった西野が殺され、モニターの間に動揺がはしる。誰が。なぜ。もしかして次は……? 疑心暗鬼の中、リーダーシップをとる者、それにへつらう者、12人がいくつかの小さなグループに分かれていく。結城は、ひょんなことから事前に顔見知りだった須和名祥子と行動を共にすることが多くなっていくが、みなが恐怖に震える中で、超然とした雰囲気の須和名は決して動じることなく、にこやかな態度を崩さないのだった。
下手なミステリ読みが紛れ込んだミステリーツアーとでもいおうか。事実、モニターたちは次々に殺されていくのであるが、結城は「暢気だな」と周囲から呆れられるほどに、(須和名ほどではないが)動じることがない。というのも、現実でありながら、まるでフィクションのような……と思ってしまっているし、<実験>における解決法そのものが、現実とは大きくずれている部分があるからだ。
米澤穂信の登場人物たちが感じる、現実と薄い膜をひとつ隔ててしまったような感覚を、うまく結城に与えている。そういう意味で、最後に結城が人が変ったように饒舌になるのにも納得。
ある程度、米澤穂信作品を読んでいる人のほうが楽しめると思う。
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