「エイリアンを逮捕できるわけがないだろう!」
            
 「イリーガル・エイリアン」ロバート・J・ソウヤー(内田昌之訳) 早川書房

 アルファ・ケンタウリからやってきたトソク族は、人類とは似ても似つかぬ姿をしていたが、ファースト・コンタクトは順調だった。アメリカ合衆国大統領の科学顧問をつとめるフランシス・ノビリオと、天文学者のクリータス・カルフーン(クリート)のふたりは、ロシアをはじめとする各国と協力しながら、エイリアンとの交流を進めてきた。だが、そんなある日、クリートが無残にもばらばらに切り刻まれた状態で発見される。状況から考えても、アリバイのないトソク族のひとり、ハスクが犯人であると推測されたが、はたしてこの状況下で、エイリアンを裁くことなどできるのか。かたや人類とエイリアンとの友好関係の存続、かたや殺人事件の捜査と板ばさみになる人々。そして前代未聞の裁判が始まる。
 面白い。ファースト・コンタクトの最中に殺人事件が起きてしまうという、この奇想天外なおもしろさ。しかもこの小説、SFでありながらミステリでもあり、そして何より、法廷小説であるのだ。考え方そのものが異質なエイリアンに、検事も弁護士でさえ振りまわされる。そして法廷の外でも、さまざまな人々がさまざまな形で巻き込まれている。人類と違った構造のエイリアンにもし死刑判決が下ったら……などと先のことまで考えて、最も苦しみのない死刑方法、なんてものを考えさせられる科学者。黒人に死刑を申しつけたのにエイリアンは助けるのか、などと人種問題にまで発展して責められる判事。もうぐちゃぐちゃ。
 しかも笑えるのは、陪審員の選出。エイリアンに嫌悪を抱いていても、あまりにもエイリアン好きでも困る、ということで、SF小説を読んだことがありますか等々の質問のあと……
「ミスター・スポックの父親の名前は?
 SETIはなんの頭文字か知っていますか?
 SF大会に参加したことはありますか?
 UFOを見たことがありますか?」

 なんて質問まで。しかし、ここはただ笑って読み流してはいけないところ。なんと、あとでこの問題の部分が原因で、陪審員としての資格を失う人が出てくるのである……
 とにかくオススメ。お楽しみ下さい。



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