トムは、ついさっきまでの失望も忘れて、押し寄せる安堵と幸福感に満たされた。この歯の持ち主は、全員ではないにしても、大抵の人間がもっていない遺伝子を三つもっていたのだ。
             
「イエスの遺伝子」マイクル・コーディ(内田昌之訳) 徳間書店

1968年、ヨルダン。イエス・キリストの復活を信じる狂信的な集団ブラザーフッドは、いままさにイエスの復活を示す兆候を得て、<彼>の生まれ変わりの探索に力を入れはじめた。
そして2002年、ノーベル賞を受賞したばかりの遺伝子学者トム・カーターは人間の設計図とも言える遺伝子の解読装置を発明したことによりブラザーフッドに命を狙われ、トムの傍らにいた妻オリヴィアを喪うという悲劇に襲われた。しかもオリヴィアの死は、彼女が悪性の脳腫瘍に冒されていたことも明らかにし、不安にかられたトムはひとり娘ホリーの遺伝子解読を行うが、そこに出てきた結果は、発病後の余命1年という最悪なものだった。トムは運命に逆らうためありとあらゆる手段を探し、ついには奇跡の治癒の能力をもつイエス・キリストの遺伝子の謎解きに手を染める。そしてそれはブラザーフッドのイエス・キリスト探索とも絡み合い、ついにブラザーフッドはトムに接近。自分を殺そうとした相手、妻を殺した相手とは知らぬままに、トムはブラザーフッドと手を結ぶことになるが……――
治癒能力をもつことがイコールで神となるはずはない。では<神>の証明とは何か? 科学と神学とは相容れないものなのか? 
娘の命を守るため、限られた時間の中で精一杯闘おうとする父親の姿がよい。冒険ミステリーであると同時に、人の感情、誰かに愛されること、愛することの意味を問う作品ともなっている。オススメ。



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