「考えの足らぬ盲信的な輩は、私と私の神を傲慢だと罵倒する。けれどほんとうに身勝手なのは、リアチェ、お前とお前の神ベイモットではなくって？」
　　　　　　「氷結の魂」　菅浩江　　徳間書店

　花枝と癒しの湯に満ち溢れた美しい都、リアチュール。火の神ベイモットに献花をささげる成人の日の感謝祭を控えた王女ガレイラに、氷の魔王グラーダスの呪いの矢が突き刺さる。魔王の花嫁となったガレイラの圧政に、花の都は見る影もなくなり、同盟諸国の使節団がその都を訪れる。しかしそこで待ち受けていたのは恐るべき魔王の仕掛けた罠だった。リアチュールを、そして同盟諸国を救うため、泉の国の第二王子ゼスを頂いた同盟軍が、極寒の地を抜けて魔王グラーダスの居城へと向かう。次々に襲い掛かる敵と、極限状態の中でさらけ出される弱さや不信。まずは己自身と戦いながら、彼らはグラーダスを倒せるのか。
　ものすごーく簡単にいってしまうと、「雪の女王」逆バージョン。氷の矢を胸に受けて性格の変わった人を追って氷の国へと向かう。しかもエルリック・サーガにあるような、神々の喧嘩に人間が巻き込まれるような理不尽さも伴う。氷の魔王グラーダスは自分の欲望のために人間に力を与えるが、火の神ベイモットもまた、拘束された自分に拗ねていて、上手な取引きをしないと人間のいうことをきいてくれない。
　作者自身があとがきで気恥ずかしいと書いているごとく、「私の銀の星」など、赤面してそそけだってしまいそうな台詞も多々ある。が、それゆえにこそ、懐かしさのともなうファンタジーになっている。闘いが外だけではなく、中にもあること。成長物語である点からも、もしかしたらあまりに若い人にはテンポが遅く、古くさいファンタジーに思えるかもしれない。けれど、じっくり読み進んでくれることを願う。



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