「あの人、計算機が教えることのできない何かを学ぶ必要があるの。恥じることを学ばなければいけないのよ」
          
 「人間以上」 シオドア・スタージョン(矢野徹訳)ハヤカワ

 言葉を知らぬ白痴の青年。語りかけられる言葉に何の意味をつかむこともできず、笑ったことも怒ったこともなく、相手の機嫌の良し悪しもわからない感情移入にも欠けていた彼。幼い子ども、赤ん坊の言葉をのみ聴きとることのできる彼が出会ったのは、不思議な女性だった。歪んだ育てられ方をし、しかしその歪みゆえに悪も善すらもない世界に住んでいた女性と出会うことで、白痴の青年は急激に変化する。そして、言葉を得るようになった彼が自分につけた名前は「ローン」。だれから理解されることもなく過ごしてきた自分自身につけた名前。「ひとりぼっち(オール・アローン)」。
 ローンがその後に出会ったのは生意気な少女、いたずら好きの黒人の双子、病気による発育不全の赤ん坊。人々からは厄介者と疎まれ、はじき出された彼らは、しかし人類のあたらしい姿でもあったのだ。テレパシー、テレキネシス、テレポーテーション。ひとりではなく、集団で力を発揮する超能力者。彼らは白痴を頭にいただいていたときには変化がなかった。けれど、憎悪と恐怖に凝り固まった少年、ジェリーがローンの代わりとなったとき、彼らの一員である少女ジャニイは何かを学ぶ必要を感じ始める。腕は切り落とすことができる。足も、他の部分なら……けれど、頭を切り落とすことはできないのだから。
 実は大学生のころ、この話をもとに「道徳教育の研究」のレポートを書いたことがある(教授は「スタージョンってどんな人ですか、他にどんな作品がありますか」とかなり熱心に尋ねてきたものだ)。蟻には蟻の、人食い人種には人食い人種の道徳があるだろう。それでは、人類とは別の存在である彼らは、なにを規範として生きるべきなのか? 
肩の凝らない作品でありながら、道徳について、倫理について、品性について。深く考えさせてくれる佳品である。



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