「もうおしまい?」
とんでもなかった。
「星虫」 岩本隆雄 ソノラマ文庫
女の子は宇宙飛行士にはなれないの?
思い込みが激しく、宇宙飛行士(スペースシャトルのパイロット)になるためには身体を鍛えねば、と六歳のころからジョギングをしているような少女、氷室友美。十六歳になったいまも、六歳の夏休みに不思議な庭にいた不思議なおじさんとの出会いによって、友美の夢は支えられている。六歳よりは大人になり、さまざまな困難を前途に眺めながらも。
そんなある夜、いつものようにジョギングをしていた友美が見たものは、無数の小さな星が降ってくる、幻想的な光景だった。しかし小さな星が次々に地上へと降りそそぐ光景はあっとうまに終わりとなった。「もうおしまい?」がっかりして空を見あげて呟く友美。けれど、「とんでもなかった」。翌日、目がさめた友美の、そして人々の額には宝石のように輝く小さな星……のちに、「星虫」と呼ばれるものがついていたのだ。
宝石のように美しく、しかもそれをつけることによって視力や聴力が増強されるため、はじめこそ星虫はまるで福音であるかのように歓迎される。虫が嫌い、こんなものは気持ち悪い、とこころの中で拒絶さえすれば、なんの痛みもなくぽろっと取れてしまうところからみても、なんの危険もなさそうだ。ところが星虫は次第に大きくなり、さらには変態をはじめるようにまでなって……―――
ひとの命も他の生物の命も、すべて等しい……と、いいきることができるだろうか。自分の直感では星虫はなにも悪いことはしない、と思っていても、世界中で星虫は危険だ、人間を餌として成長するのだといわれたら、どちらを信じるだろうか。自分の直感か、コンピュータがはじき出した確率か。友美はどちらを信じるべきなのだろう……
……ま、実際こういうことがあったら自分はすぐに星虫を額から取っちゃうだろうな、と苦笑しつつ思って読んでいた。
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