「あなたはいつも孤独だったんじゃないのですか、ニック?」
         
 「ギャラクティックの攻防」デイヴィッド・ファインタック(野田昌宏訳) 早河書房

 ニック・シーフォートが国連事務総長として宇宙軍士官学校を訪問しているさなか、見習生が集団殺害されるという事件が発生した。それは宇宙軍に予算を使うために地球温暖化を見過ごしにしている国連に対する<環境保護同盟>のテロだと思われた。国連内部では温暖化から地球を救うよりも、宇宙へ植民すべきだという意見は多く、折しも宇宙軍は巨大な宇宙軍軍艦<ギャラクティック>を建造していたが、環境保護同盟はそれに異を唱えていたのだ。双方折り合うことができぬまま、ついには国連本部にまで爆薬が仕掛けられ、シーフォートは歩くことができぬほどの重傷を負う。だが、愛する息子P・Tもまた、環境保護運動に関わっており、ニックの意志を変えさせようと、ある旅にニックを誘い出す。そこでシーフォートが目にしたものは……――
 今回はシリーズ前半並の不幸の連鎖。本人が重傷を負うだけでなく、ニック曰く、彼のせいで、周囲の人間がばたばたと死んでいくはめになる。今回はそれが激しいため、ネタばれを防ごうとすると、あまりストーリーを語れない。ともあれ、政治とは一線を画していたはずのシーフォートだが、否応もなくふたたび国連事務総長の座に返り咲き、さらには後半になって宇宙軍にまで復帰することに。なんだかんだいって、権力を手に入れ、それを使っているのである(本人にしてみれば、不本意だが、使わざるを得ない……といったところか)。
 それにしても、トリヴァーの存在は大きい。ニックとこれだけやりあえるのは彼しかいないだろう。ニックも自分の気分転換のためのいじめ相手としてトリヴァーを認めているし、欠かせない人材である。……気分転換のためのいじめといえば、ニック、ついに車椅子相手に癇癪を起して喧嘩をしている。「繊細な」人だと思われているが、たんに癇癪持ちのじじいなのでは……



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