ぼくは、永いこといっしょに住んでいた人のことをなにも知らなかったことに驚いていた。父さんは、感じやすく傷つきやすい人と見られていた。ぼくたちはみんなでかれを守っていた。
 でも父さんは、ぼくが思いもよらなかったやり方で、かれの口から出たとは思えぬ言葉で、この話し合いをしきろうとしている。

               「突入! 炎の反乱地帯」デイヴィッド・ファインタック(野田昌宏訳) 早河書房

 P・Tは14歳。年齢よりもはるかに高い知能を持つが、情緒的には幼い少年であり、元国連事務総長、隠遁生活を送るニコラス・ユーイング・シーフォートの息子でもある。父のしつけは厳しいが、それでも繊細で傷つきやすい父を、ママと一緒に守るのが自分のつとめだと感じ、深い愛情を抱いている。同じ家には、父の補佐官であるアダム・テネアの息子、ジャリッドが住んでいるが、ジャリッドは自分がP・Tほどには大人たちに愛されていないことを感じ、ある日、黙って家を抜けだして、危険なニューヨークの街に飛びこんでしまった。謎の失踪を遂げたジャリッドに責任を感じたP・Tは、ジャリッドを追うため、両親にはなにも告げずに家を出ていく。そのころ、ジャリッドはあっという間に拘束され、命の危険にさらされていた。息子ふたりのため、下層区域の危険を知るシーフォートとテネアは自らトランスポップたちとの交渉に乗り出す。しかしそのころ、トランスポップたちは互いの縄張り争いだけでなく、国連の扱いに対しても叛乱を起こすことを計画していたのだ。今回の出来事を政治的に有利なものに変えようとするリチャード・ボーランド上院議員と、あくまでも息子の命のために闘おうとするシーフォートとの対立。この機にトランスポップを一掃しようとする動きに対し、シーフォートは誰もが思いもつかなかったような反撃に出る。
 ……と、いうわけで、なんと前作からかなりの時間がたち、ニックが父親になっているのである! さらに、これまで一人称で語られていたのと異なり、P・Tやジャリッド、トランスポップのプークなどの視点で物語が進むため、自虐ループを客観的に眺めることになっている。一人称だと、ぐじぐじ思い悩み、逆上し、癇癪を起こす……わけだが、それを他人の目から見ると「繊細な人」が思いもかけない一面を見せるということになるのか、そうか!
 自分が与えてもらえなかった父親からの愛情を、自らが父親になることで息子に示そうとするニック。が、そのぎこちなさったら(苦笑)。ちなみにP・Tは例の「彼」の名前です。亡くした友人は多いはずなのに、この名前をつけたのか……



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