「ネコイヌもいいけれどねえ、君、そんなことより、早くヒトのオスを飼いなさい、ヒトのオスを!」
               
  「ヒトのオスは飼わないの?」 米原万理  文春文庫

 表紙をめくると、まずは「執筆時のメンバー」が紹介されている。無理、ゲン、万理、ターニャ、ノラ、ソーニャ、道理、美智子。ヒトもイヌもネコも、同列に並んでいて、それに決して違和感がない。
 原子力研究所のセミナーに通訳に行ってはイヌを拾い、エネルギー関係の会議に通訳に行ってはネコを拾い。その出会いがなければ失われていたかもしれない幼い命を救ったわけだが、その割に、悲愴感はない。というよりもむしろ、その出会いによって得たもののなんと大きいことか。それにしても、ロシアでもひと目惚れしてしまうとは……(しかもそれはやはりヒトではなくネコである)。大胆というか後先考えないというか(笑)。
 米原万理のユーモアたっぷりの文体で描かれるエッセイ。イヌ、ネコ、ヒトに対する限りない愛情が伝わってくる。「いま」ではない時代に住んでいる母親に対する視線の優しさも、ゲンや道理の日常を書くほんの隙間に出てくるだけではあるけれど、だからこそ限りなくあたたかい。忙しい日々を慰めてくれる家族の多さがうらやましいほどである。
 万理さん亡き後、この家族たちはどうしているのだろう。そんなことが、ふと気になるけれど。イヌ、ネコ、ヒトの好きな方にオススメの一冊。



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