「本はみんなで作るものよ。たくさんの人の手を通り、順繰り順繰りめぐりめぐって書店に届く。個人プレイではありえない」
        
    「平台がおまちかね」(「平台がおまちかね」所収)大崎梢  東京創元社

 本が好きで、大学時代にバイトしていた出版社に採用されることになった井辻智紀。彼にはあるやっかいな「病気」があって、どうしても編集部には行きたくなかったので、営業として採用されたのはひと安心。といっても、新人営業社員の仕事には、思いもかけないことも多くて……
 連作ミステリ。
 自社本をイベント企画までしてたくさん売ってくれている書店に足を運んだら、思いもおかけず冷たい対応をされてがっくり落ち込んだり、他の出版社の営業同士、ひそかにマドンナとして守ろうとしていた女性書店員の落ち込みを解決すべく、その原因を探ったり、新人賞の授賞式直前に失踪した新人作家を探しまわったり。いみじくも登場人物の一人がいったとおり、「本はみんなで作るもの」。編集者だけではなく、営業マンだって頑張っているのだ。
 穏やかな風貌と性格から、他の出版社の先輩営業マンから「ひつじくん」とか「仔羊くん」などといわれるけれど、いまはひとつずつ、真摯に仕事に取り組む時期。そういうことを自覚して、社会人として一歩ずつ歩を踏み固めていく智紀の姿が良い。最終話である「ときめきのポップスター」には、同じ作家の別シリーズ、成風堂のあの人もちょっぴり絡んでくる。本が好きな人、書店が好きな人にオススメ。



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