「さてはあいつ、僕を殺したあと、死体を持ち去ったな……」
「向日葵の咲かない夏」道尾秀介 新潮文庫
明日から夏休みという終業式の日。欠席したクラスメートS君の家を訪れた「僕」、ミチオは、そこで首つり自殺をしているS君を発見する。しかし、ミチオの報告を受けて大人たちがS君の家にいったときには、もうすでにその死体はどこにもなかった。いったんは嘘をついたのではないかと疑われるミチオだが、家の中にはやはり、誰かが死体を動かしたりした形跡もあったという。だが、誰が、なんのために? 折しも近所では、小動物が殺され、足を折られた上に口の中に石鹸が詰め込まれているという猟奇事件が頻発していた。S君もその犯人にやられたのか? 幼い妹のミカに話を聞いてもらいながらも鬱々としていたミチオだが、死体発見から一週間後、S君は、思いもかけない姿に生まれ変わってミチオの前に現れた。自殺じゃない、殺されたんだ、というS君の訴えに、ミチオは独自の調査を開始するが……――
もっとも疑わしい担任教師。調子の狂った母親。大人びた口調で話す妹。頼りになるトコお婆さん、そして、とあるものに姿を変えたS君。ミチオの周囲をとりまく奇妙な状況に、不安とかすかな不快を感じながら読み進めていくと、最後にとんでもないオチが待っている。
「このミステリーがすごい! 2009年版」作家別投票第1位。読者をミスリードするのがこの作者の手法で、そのあたりが評価のしどころなのだと思う。ここまでのミスリードが許されるのかどうか……は意見の分かれるところだが、冷静に考えてみると、あちらこちらに「それ」を匂わせる描写はあるわけで、要は読者がどこまで気づくか、がポイントか。とはいえ、中には、これは反則だと怒る人もいるだろうなあ……
騙されることが嫌いでない人には、オススメ。
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