花明かりが幼いうちは、嬉しいと花の香りを発する。成長した花明かりは、喜ぶと自らの内から輝く。
                  
 「引き出しの中の家」朽木祥  ポプラ社

 体の弱い七重は、お父さんが再婚した冴子ママにどうしても親しむことができなかった。冴子ママの好きなのは綺麗な毛並みのペルシャ猫や、舶来のお人形で、七重の好きな猫のフジや、大好きだったビニール製のウサギ、ピョンちゃんは気に入らないのだ。そして冬休み、大好きなおばあちゃまの家で高熱を出した七重は、そのままずっとおばあちゃまの家で暮らすことを望み、父と義母とは別れて暮らすことになる。静かでゆたかな日々の中で少しずつ癒されていく七重だが、なにより七重の興味を引いたのは、その地域に伝わる花明かりの伝説だった。花明かりにふさわしい大きさのものを仕立てれば、花明かりはきっとあらわれる――ならばかつてお母さんと一緒に作った「引き出しの中の家」こそ、花明かりにふさわしいものなんじゃないだろうか? そして七重のもくろみはうまく成功し、七重は独楽子という名の花明かりと親しくなることに成功するが……――
 物語は、七重と独楽子、薫と桜子という、花明かりと仲良くなった少女たちの姿を描き出す。病がちだけれど器用な七重と、七重よりはややお姉さんくらいの年齢にあたる花明りの独楽子。不器用だけどお菓子作りだけは得意な元気一杯の薫と、おてんばな幼い花明かりの桜子。時を経て、かつて果たされなかった約束が果たされたときに起きた奇跡とは。
 佐藤さとるの「コロボックル」シリーズや、いぬいとみこの「木かげの家の小人たち」、メアリー・ノートンの「床下の小人たち」(「借りぐらしのアリエッティ」として2010年夏、ジブリアニメ公開)などを思わせる小人の物語。花明かりという存在と、小さな宇宙とでもいうべき盆栽がうまく組み合わされているのもよい。
 それにしても、七重の作った「引出の中の家」は、その工夫も手先の器用さも秀逸。こんなの作れたらすごい。



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