速水は、顔を上げる。高階顧問と視線がぶつかる。
 その瞬間速水は思った。ああ、俺はきっと外科医になるんだ、と。
               
 「ひかりの剣」海堂尊 文藝春秋

 1988年。ひたむきにストイックに剣の道を追う東城大医学部剣道部主将、速水晃一。有り余る才能を持ちながら、それゆえに剣の道にのめりこむことをしない帝華大医学部剣道部主将、清川吾郎。物語はこの二人が「医鷲旗」という優勝旗をかけて戦う物語である。
 ……というわけで、「バチスタ」シリーズでお馴染の速水部長の学生時代。医学ミステリー的な要素はまったくなく、ベタベタな青春小説に仕上がっている。とはいえ、学業そっちのけで剣道にのみ打ち込んでいるあたり、なんていうか「その後」が想像できてしまって面白いし、高階「顧問」が帝華大から東城大に異動してきたりと、シリーズファンには見逃せない一幕。この人って若いときから食えない狸だったんだなあ……とか、おや、ここにも知っている顔が、などなど。
 才能を持ち、なおかつ努力も惜しまない速水もよいが、有り余る才能を持ちながら、へらへら生きている清川が、よい。両チームのメンバー5人の関係もよい。後半、とにかくひたすらに技を磨き続ける両雄からは目が離せない。
 が、しかし。
 わたしは一応剣道なんぞをやっていて、団体戦なども経験があるので、そのあたりの駆け引きとかも面白いのだが、これって剣道やってない人ってほんとに楽しめるんだろうか……(笑)。
 ともあれ、オススメ。きっとこれで剣道をやってみたいな、なんて人も増えるかもしれない。




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