「人に対して与えられるものは、その人が内側に持っているものだけと決まっているものなんだよ」
　　　　　　　　　　　　　　　「イン・ハー・シューズ」　ジェニファー・ウェイナー（イシイシノブ訳）　アーティストハウス

　ローズ・フェラーは法律事務所に弁護士として勤める30歳。少女時代は太りすぎでダサイでぶで、友人はゼロ。現在はエイミーという親友がいて、相変わらず太りすぎだけれど頭のよさでそれをカバー。洋服や髪型はダサいままだけど、趣味の靴集めに関してはおしゃれな靴を何足も何足も持っている（ほとんど履いたことはないが）。同じ事務所の上司と恋愛関係にある。ただし、いつも妹のマギーのせいで物事はしっちゃかめっちゃかに。
　ローズの妹マギーは学習障害を持つ28歳、無職。他の人のように文字を読んだり書いたり理解したりということができないため、次々に職を変わっている。神から授かったナイスバディーの持ち主。少女時代は多くの友人に囲まれていたが、いつしか世の中は頭のいい連中が幅をきかせるようになったことに気づいてしまい、刹那的な日々を送っている。
　まるで正反対なのに、どこかでつながっていて、互いになくてはならない親友のような関係だったローズとマギー。しかし、マギーがローズの恋人と寝てしまってから、物事は一変する。ローズにたたき出されたマギーは行くところに困り、ついにローズが学生時代をすごしたプリンストン大学に転がり込むのだ。図書館の片隅に隠れ家を作り、無料の食事と忘れ物で生活をやりくりしながら、マギーはそこで現代詩のおもしろさに目覚める。小説とは違い、詩ならマギーも他の人と同じように――他の人もマギーと同じように、文と文、単語と単語をばらばらにして噛み砕き、ひとつひとつを理解しなければならないから。そこで日々をゆっくりと過ごすうち、マギーはこれまでと違う自分を少しずつ発見する。
　一方、恋人と顔をあわせることができなくなったローズは法律事務所を休職し、犬の散歩をアルバイトで始める。これまでとはまるで違う生活を送る中で出会ったかつての同僚サイモンは、これまでローズが思い描いていた理想の男性とはまるで異なっていたが、楽しい食事と楽しい会話にいつしか心がほぐれてゆく。
　ローズとマギーはどちらも自分にないものを持つ相手をうらやんでいるために、自分に自信が持てない。遠く離れてはじめて自分の魅力に気づき、そしてそうなってはじめて、相手がなくてはならない存在だということに気づく。わたしには姉も妹も（それをいうなら兄も弟も）いないけれど、きょうだいっていいなあ、うらやましいなあと強く思った一冊。



オススメ本リストへ