この感触は、ずっと残る。そう思った。頭で覚えたことは忘れてしまうかもしれないけど、体で覚えたことは決して忘れないだろう。
           
    「永代橋」(「橋をめぐる:いつかのきみへ、いつかのぼくへ」所収)橋本紡  文藝春秋

 小学五年生の千恵は、ぎくしゃくした両親によって、ひとり祖父エンジの住む深川にやってきた。両親の不和の原因は千恵の進学問題。そのことを知っている千恵は、エンジのところで暮らしながらも、なんだかうつうつとして楽しめない日々を送っている。けれど、ひょうひょうとしたエンジの生活や、偶然できた友達の存在が、千恵を少しずつ慰めてくれるが……――
 深川にかかる橋の物語。橋のこちら側と向こう側は、すぐ近くなのにすごく遠くだったり、すごく遠くのように思えて、すぐ近くだったり。
 去ったはずの地に戻ってくる女性、新たな住まいを探しに来る夫婦、これから飛び立とうとする高校生。それぞれの立場で、橋を中心とした深川への想いを綴る。
 登場人物たちの年齢がけっこう高いので、中高生だと共感できる物語は限られてしまうかもしれない。とはいえ、進学校に通う秀才と、やくざの事務所からスカウトされるような不良という正反対のようにみえる幼なじみ同士の友情を描いた「大富橋」や、新居を探しているうちに学生時代の夢を思い出す「まつぼっくり橋」など、読みやすい話も含まれている。短い話ばかりなので、気負わずに読めると思う。



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