私が選んだはずの探偵という生き方は、いまのところ私が本来思い描いていたものとは、違う種類のものになりつつあった。
「ハードボイルド・エッグ」荻原浩 双葉文庫
十五歳のとき、図書館で出会ったフィリップ・マーロウに嵌って以来、自分は探偵になるために生まれてきたと信じて疑わない「私」、最上俊平。しかし、唯一くるのは、ペットを探してほしいという依頼ばかり。ダイナマイトボディと信じて雇った秘書は死にかけた婆さんで、依頼を受けてようやく探しあてたシベリアン・ハスキーのチビは飼い主に捨てられていたことがわかる。厄介ものを抱えて四苦八苦する最上だが、さらに思いもかけない殺人事件に巻き込まれ、ひとを殺した犬を探す羽目になる。
マーロウを気取って捻りまくった台詞を吐けば、一般市民とは話が通じず、街を捜索すれば、不審者や下着泥棒と間違えられる。ペット探偵に誇りなどないが、地味な探索を続ける最上に明日はあるのか。
ペット探偵のハードボイルド(笑)。どんなに頑張ったところで、猫探し、犬探しなので、猫のイラストと「ヘルプ・ニャー」などと書いた名刺を持ち歩く彼は、ハードボイルドには程遠い。とはいえ、閉所恐怖症で偏食でいじめられっこの過去を持つ最上の「がんばり」は見どころ。
なお、この話には「サニーサイドエッグ」という続編もある。なぜかこちらは創元推理文庫から。
心優しき探偵の物語。オススメ。
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