「これでもう、あのゲティスバーグのラッパを吹くひとはいなくなってしまったのね」
「犯罪カレンダー」 エラリイ・クイーン(宇野利泰訳) ハヤカワ文庫
知らないひとはいないと思うが、エラリイ・クイーンといえば父親と息子が共同で書いている作家で、息子の名前がそのまま筆名と登場人物になっている推理小説である。
……大嘘。
エラリイ・クイーンとは、フレデリック・ダネイとマンフレッド・B・リーという従兄弟同士の合同筆名で、探偵役も著者と同じエラリイ・クイーンという名が与えられている。推理小説の実作者であり優秀な編者でもある(ホント)。
あのアシモフでさえEQMMには何度かボツをくらったくらいなのであるから、そのレベルの高さは知れようというものだが、時代的にはもちろん古い。それゆえにこそ、どこか奥ゆかしい犯罪の空気、会話のやりとりの丁寧さ、控えめさ、そんなものがほのみえて安心して読める。「犯罪カレンダー」は名前の通り、1月から12月の行事をメインにすえたパズル的要素の多い作品群である。解説によれば元がラジオドラマだったということで、そう考えると確かにわかりやすいし、読者(リスナー)の気を引くために飽きさせない展開となっていることがうかがえる。
いまさら「シャム双生児の秘密」や「Xの悲劇」なんて読んでも……と尻込みしている人には、ぜひこのあたりをオススメしておこう。ただし、これだけを読んでクイーンを語ると痛い目にあうかもしれないので、これで雰囲気がつかめたら、ぜひ長編にもすすんでいただきたい。
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