こいつらは敵だ。
               
 「半島を出よ」 村上龍  幻冬舎

 2011年、3月。北朝鮮のコマンド9人が福岡ドームを武力占拠した。彼らは北朝鮮の「反乱軍」を名乗って日本に乗り込んできた。しかしこれは北朝鮮による巧妙な侵略だった。正規軍ではなく、反乱軍によるテロだと言い張っている限り、日本やアメリカが北朝鮮に対して攻撃をしてくることはあり得ない。戦場はあくまでも日本国内にとどまるだろう。作戦名は「半島を出でよ」。
 財政が破綻し、ホームレスや浮浪児が増え、そしていま北朝鮮の反乱軍が福岡にやってきたというのに、日本政府は手をこまねく一方だった。いきなりの重責にうろたえる県知事と市長。反乱軍の北上を防ぐためにと福岡は封鎖され、悪辣に金を稼いでいた者たちが強制的に連行されていく。日本政府はあてにならない。福岡に住む人々は不安のうちに生活することとなった。
 物語は反乱軍の兵士たち、政府関係者、新聞社の記者、そしてそれぞれに複雑な理由で世間と切り離されて生きている少年たちを描いて進んでいく。
 自己を律して生きてきた精鋭部隊とはいえ、初めて身につけたさらさらの下着や、はき心地がよく丈夫な靴、味わったことがないほどに旨い食事、そんなものがいつしか兵士たちの意識を変えていく。部隊の規律はいつしか緩みがちとなってしまうのだ。しかも、精鋭中の精鋭だったはずのメンバーの心の中にさえ、いつしかこれまでの自分の在り方を問い直すような、そんな考えが生まれてしまう。
 そんなとき、誰にも気づかれない片隅で、反乱軍の兵士たちを「敵だ」とみなしたイシハラたちのグループが動き始めていた。傷つけられ、放っておかれ、人を殺し、傷つけ、どうしても“世間”というものとうまくやっていけない少年たち。同じ場所に暮らしていても、ばらばらで、ひとつにまとまることもなく(できず)、互いのフルネームさえ知らない彼ら。しかし、平和ボケしているのか、不安を感じながらもいつも通りの生活を続けようとしてしまう人々、考えすぎて結局は動きのとれない政府、そんな中で、アウトローだった少年たちが鮮やかな逆転劇を見せる終盤が見事。こういう少年たち(や、その少年が育ってなったオッサン)を描かせると、ほんと、村上龍はうまいな、と思う。
 あまりに圧倒されて、うまく説明できません。とにかく、読んでほしい。
 それにしても、これを読みながら、途中でいつ書かれたんだろう……と思ってしまった。この小説の中の2007年〜2009年あたりのことは、あまりにも現実的すぎるからだ。それが2005年に発行されているあたりに、村上龍のすごさを感じる。




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