毎年、十月二十日、母親宛の大きな花束がわが家に届く。物心ついた頃から記憶はある。
「花の鎖」湊かなえ 文藝春秋
物語は、梨花、美雪、紗月のそれぞれの視点から語られる。両親を事故で失ってから祖母とともに暮らしていた梨花は、勤務先の英会話学校の経営破綻、祖母の入院という立て続けの出来事に困窮し、毎年、母親宛に花束を送り続けてくれた「K」に経済的な援助を頼むことを決意する。だが実際のところ、「K」は何者なのか、母とKの間になにがあったのかは知らないままだった。
意中の人と結婚したばかりの美雪は幸せの絶頂にいたが、唯一気になるのは、夫が働く建築事務所の社長夫婦との人間関係。だが、夫が人生をかけて取り組むコンペティションのために、妻としてできるだけ支えていきたいと思っている。
絵画教室の講師として働く紗月は、ある日、思いもかけない人物の訪問を受けて動揺する。それは学生時代に山岳部で因縁のあった希美子だったが、過去のいろいろから、紗月はすなおに希美子の願いを受け入れることができない。だが、偶然、希美子とのやり取りを目撃した前田の誘いで八ヶ岳を目指した紗月は、そこで前田に自分と希美子のあいだに残るしこり、過去のできごとを語ることになる。
三人の女性が語る物語。そこに、梨花の母に花を贈り続けたKはどのようにかかわってくるのか。
同じ商店街の、同じ和菓子が重要なアイテムになっていたり、とある画家とのかかわりが伏線になっていたりと、絡み合いは微妙だが、実はけっこうはやいうちに三人の関係は見えてくる。そして、見えてきたほうが、K(Kのイニシャルを持つ登場人物は何人も登場する)が誰なのか、という謎を解く楽しみが深まっていくと思う。
湊かなえにしては、三人の女性の一人称がかなりはっきり書きわけられていると思う。
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