「たとえば、あんたが死んだってね、私はこだわるのよ」
         
 「長夜」(「花散る頃の殺人」所収) 乃南アサ 新潮文庫

「凍える牙」の女性刑事、音道貴子を主人公とした短編だが、「凍える牙」を読んでいなくても大丈夫(ただし、滝沢刑事とのちょっとしたやりとりの奥を楽しむには、読んでいるにこしたことはないが)。ゴミ漁りストーカーに狙われ、近所の奥さんに妙に親しげに「刑事さん、刑事さん」と声をかけられることに辟易して引越しをし、補導しようとした少女にはブスだの肌が荒れるだのいわれて保湿クリームを買いに行く……。相変わらず、クールな割には意外ときちんと「女性」している(妙ないいかただが)。
 「長夜」では、道ばたで女の人が目を開けたまま寝ているようだ、という通報でかけつけた貴子が見たのは、知人の死体。飛び降り自殺のように見えるが、しかし、貴子の友人であり、死んだ染織家の友人でもあった安曇は納得出来ない、といって彼女の死の背景を探りはじめる。エキセントリックで結婚願望が強く、難しい性格。さまざまな男性関係。貴子にとってはそれは単なる知人の死であったが、ふと振り返って、こんな女性と、どうして安曇は親しくつきあえていたのだろう、とも考える。そしてどうしてこんなにその死にこだわるのだろう、と。安曇の生き方、貴子との関わりなどもおもしろいところなので、ここは伏せておくが、ふと自分の友人のことを考えてしまう瞬間があるかもしれない作品でもある。
 「花散る頃の殺人」でもそうだし、他の作品でももちろんそうなのだが、事件を客観的に追いながら、ふと「どうしてこの人は」「なぜこの人は」と人間の心理にまで首を傾げる貴子の在り様が、作品に深みを持たせることになっていると思う。特別付録「滝沢刑事と著者の架空対談」も必見。



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