「俺は悪党じゃないさ。正義の味方だ。ただ、世間の正義と俺の正義が違うだけだ」
「ハゲタカ」真山仁 講談社文庫
ニューヨークで将来を嘱望された若きジャズピアニストとして日々を送っていた鷲津政彦は、自分とは歴然とした差のあるピアニストと出会ったことで夢を断念。そんな彼を拾い上げたのは、彼のハンドラーとしての才能を買った企業買収ファンドだった。それから数年後。鷲津政彦は、買収ファンドの雄、ケネス・クラリス・リバプール(KKL)の日本法人代表、ホライズン・キャピタルの代表取締役として、三葉銀行内の不良債権処理を担当する芝野健夫の前に現れた。不良債権を少しでも高く売りつけたいという三葉銀行の思惑は鷲津によってことごとく否定され、芝野は自分の知らなかった世界を目の当たりにさせられる。そして、鷲津たちは手に入れた債権の処理を進める中で、放漫な経営者を容赦なく切り捨て、斬新な経営再生プランを打ち立ててゆく。
一方そのころ、老舗ホテルオーナーの娘、松平貴子は、これまでのやり方では再建しきれないミカドホテル再生の望みを託す相手を探していた。そんな貴子にさりげなく接触する鷲津。彼の望みは何か。そして、鷲津の過去に潜むある事件とは?
NHKでドラマ化され、映画化もされた「ハゲタカ」の原作。といっても、ドラマとも映画とも、だいぶ設定は違う感じがある。ドラマはドラマで面白かったし、小説は小説でとてつもなく面白い。
買収できない企業はない、とばかりに、次々にディールを仕掛けていく鷲津。敵対ファンドの妨害による息詰まる攻防や、情報戦など、はらはらどきどきさせる要素もたっぷり。貧相な中年男がふと見せる色気、なんてものがちゃんと伝わってくるのだがら、それもすごい(笑)。女王陛下と呼ばれる鷲津の恋人リン・ハットフォードや、鷲津に惚れ込んだあまりにホライズン・キャピタルに移籍してしまうアラン・ウォード、そしてもちろん芝野や、芝野の上司で食わせ者の飯島など、周囲の人々も多彩で個性的。経済小説だからといって敬遠してしまうのはもったいない。スリルとサスペンスに満ちたミステリとして、断然オススメ。
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