ぼくは、ことばそのものがイメージとして感じられる。ことばそのものを情景として思い描く。この感覚を他人に説明するのはむつかしい。
「虐殺器官」伊藤計劃 早川書房
情報軍の特殊検索群i分遺隊。アメリカ軍の一部として、暗殺を請け負う唯一の部隊に所属するクラヴィス・シェパード大尉は、内戦や民族虐殺がすさまじい勢いで進む後進諸国へと向かい、大量虐殺の主謀者を暗殺するという任務を請け負う。しかし、暗殺直前に主謀者の口から出たのは、なぜこんなことになったのかわからない、という言葉だった。己の行為に無自覚で、このような内戦、大量虐殺が起こるものだろうか。クラヴィスと同じように疑問を持っていたアメリカ軍が突き止めたのは、内戦が起こる場所には、つねにジョン・ポールという男の影があるということ、どうやら彼によって大量虐殺が引き起こされているらしいということだった。
ただ一人の男が、虐殺行為の原因となることなどあり得るのか。暗殺ではなく予防行為として、ジョン・ポール逮捕を命じられたクラヴィスと相棒のウィリアムズは、ジョン・ポールの愛人であるルツィア・シュクロウプへと接近する。以前から言語というものに興味のあったクラヴィスはルツィアに引き寄せられる。そして彼女が語ったのは、ジョン・ポールの受け売りかもしれない――ことばは器官である、という考えであった。
ことばが器官であるならば、自分自身の『器官』によって滅びた生物があるように、ことばによって滅びがもたらされることもあるのだろうか。
暗殺部隊に所属しながら、言語に対して鋭敏な感覚を持つクラヴィス。彼には、母親を殺すことを選択した過去があり、悪夢にうなされる夜も多い。そんな複雑な人物造形をもつ主人公だからこそ、ジョン・ポールと対峙したときにも、ただ単に敵と味方ということにはならないのだ。
ゼロ年代ベストSF(国内篇)第1位、ベストSF2007(国内篇)第1位。
つねに死と向き合っていた作者のみつめる生と死、ことばとイメージの物語。オススメ。
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