心など早くなくなってしまえ。恐怖され嫌悪されて怯む心など。慰めを求める弱い心など。必要なのは怒りだけだ。
            
「グアルディア」 仁木稔 早川書房

 西暦2643年。22世紀末のウィルス蔓延によって、繁栄を誇っていた人類文明はほとんどが衰退したが、ラテンアメリカの自治都市エスペランサのみが、古えの科学技術を保持し、隆盛を誇ってていた。白人と有色人種との対立や、変異体と呼ばれる異常な形態で異能を持つ人々への差別の中、1世紀半以上もの年月を青年の姿のまま生き抜いてきた実験体クリストと、知性機械サンティアゴに接続する生体端末アンジェリカ、本来は被差別の側にいるふたり(?)の人物によってエスペランサは繁栄したのだ。だがそれは、約25年の寿命が近づくと自らのクローンを産み落とし死を迎えるアンジェリカたちを、娘として、愛人として愛し、それによって権力を拡大してきたクリストの狂気のような日々によって造りあげられたものだった。七番目のアンジェリカ幼き日に、クリストは命を落とし、現在は彼の息子ホアキンがアンジェリカ――アンヘルの側に仕えるが、守護者(グアルディア)としてアンヘルを守るホアキンの前にはつねに亡きクリストが立ちはだかり、ホアキンはアンヘルを愛するだけの力を持たぬ自分に歯噛みする。記憶までをも引き継ぐアンジェリカたちにはクリストへの愛情しかなく、アンヘルもまた、ホアキンをホアキン自身として見ているとは信じられなかったからだ。だが、そんなホアキンの思いとは別に、アンヘルにはこの混沌とした世界を征服する戦いの日々だけしかないようでもあった。
 一方、神にも例えられるサンティアゴ降臨を目指し、星の野(コンポステーラ)を目指す参詣団の中に、守護者として崇められる青年JDと、彼の娘カルラがいた。過去の記憶を持たないJDと、謎の力を持つカルラ。娘を想う父と、父を想う娘。ふたりの絆は固いが、彼らの過去には破壊と殺戮のみがあった。自在に年齢も外見も変えられるふたりは、いったい何者か。
 ある思惑を持ってJDとの接触を試みるアンヘル。そんなアンヘルを見守るホアキン。さまざまな思いが絡まりあう中、サンティアゴが降臨する。
 生体端末とか守護者とかという設定が、まずもう無茶苦茶おもしろい。長々説明することができなかったのでかなりはしょったので、これはもう読んでもらうしかないのだが。話自体は、アンヘルの戦争の日々と、戦によって荒れた土地を旅するJDとカルラ、という二本立てで描かれるが、登場人物たちがそれぞれに個性的で、物語に深みを持たせている。設定のおもしろさ、ストーリー構成の巧緻さ、登場人物たちの絡みあいの複雑さ。これはもう、絶対のオススメです。
 あとがきによれば、佐藤亜紀の弟子(?)なのだとか。納得。



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