ああ、どうしよう! わたしは本当にこうしたいと思っているのかしら。失敗したら、自分も塔の防壁につるされることになるというのに。
「500年のトンネル」 スーザン・プライス(金原瑞人・中村浩美訳) 創元推理文庫
21世紀の私企業FUPが最多の資金と最新の技術を投じている極秘プロジェクト<タイムチューブ>。21世紀人は時空のトンネルを抜けて500年前に行き、そこで<エルフ>と呼ばれ、16世紀にはなかったアスピリンを取引の条件に、16世紀人との取引を行っていた。だが、未開の時代を観光地として売り出し、そこにある無料の資源を我が物にしようという21世紀側の思惑は、学はなくともしたたかな16世紀側の人間たちによってスムーズには進もうとしない。取り引きの中心にいるスターカームと呼ばれる一族は、握手をするのと同時に短剣を抜くような、したたかで復讐心に燃える乱暴な一族だったからだ。折しもまたも<スターカームの握手>にしてやられ、地質調査隊が襲撃されるという事件が発生する。スターカームにいうことをきかせる手段はないのか? このままでは21世紀人たちはその圧倒的な武力でもってスターカーム一族を滅ぼす道をも選びかねない。<エルフの乙女>としてスターカーム一族の客分となっている女性派遣研究員アンドリアの悩みをよそに、スターカーム一族の暴挙はますます激しさを増してゆく……
「ハリー・ポッターと秘密の部屋」「肩胛骨は翼のなごり」を抑えてガーディアン賞を受賞した一作。
物語は16世紀に<エルフの乙女>として暮らす21世紀人のアンドリアと16世紀のスターカーム一族の嫡男ピーア・メイとの恋物語と、ふたりを引き裂くFUPとスターカーム一族の争いが中心となる。背が高く太めで、21世紀においては無様な女性としか思われていないアンドリアが、16世紀の美の基準では非常に美しい乙女とされ、年下のピーア・メイ(メイ=乙女)という美少年に熱愛される。恋に身を任せたい一方、16世紀の不便な暮らしを永遠に続ける気はなく、またピーアの妻となって、戦に出る夫の心配をし、側女たちへの嫉妬を我慢する……そんなことも自分にはできるとは思えない。だが、21世紀側のやり口にも全面的には賛成できない……。
アンドリアがかなり生真面目な女性なので、暗くまじめに恋に仕事にと悩み、息詰まる話が、なんというか読んでいて重苦しい部分はある。が、時空を超えた恋の意外な結末は、ぜひ読んでいただきたいものである。
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