「こんにちは、赤ちゃん。地球へようこそ。この星は夏は暑くて、冬は寒い。この星はまんまるくて、濡れていて、人でいっぱいだ。なあ、赤ちゃん、きみたちがこの星で暮らせるのは、長く見積もっても、せいぜい百年ぐらいさ。ただ、ぼくの知っている規則が一つだけあるんだ、いいかい―――
 なんてったって、親切でなきゃいけないよ」
  
 「ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを」
        カート・ヴォネガット・ジュニア(浅倉久志訳)ハヤカワ文庫


 わたしの好きな漫画、三原順の「はみだしっこ」の中で、グレアムが読んでいた本がこれだった(正確にいうとグレアムはこの本のあとがきに書かれている作者の別の本からの引用……「笑うのも泣くのも、ほかにどうしようもないとき人間がやることです」について語っていたのだが)。本と出会うきっかけなんて、そんなものなのかもしれない。
 エリオット・ローズウォーター。ローズウォーター財団の総裁で億万長者の彼はアル中のユートピア夢想家で、「愛」にとりつかれている。インディアナ州ローズウォーター郡で、彼は「たいていの人間の基準からすると死んだほうが増しに思える人たち」に愛と理解と金を与える。その行為は妻を「サマリア萎縮症」(これがどんな病気かは読んでもらいたい)にさせ、エリオットの父を激怒させ、とある法律事務所の若手弁護士には大きな野心を抱かせる。登場人物たちの思惑が絡み合って進む物語はユーモアとペーソスでほどよく色づけされ、ラストは感動的でもある。
 この本に書かれているユーモアはブラックなものかもしれないけれど、わたしはなぜかこの本を読むと安心する。こころが疲れているときにはこの本をひもとくと、なぜかやさしい気もちになれるのだ。文章は短く読みやすいので、ぜひ一度、手にしてもらいたい。



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