「あたしらは夜の道を行くしかない。たとえ周りは昼のように明るくても、それは偽りの昼。そのことはもう諦めるしかない」
                   
「幻夜」 東野圭吾 集英社

 自殺した父の通夜を営んだ、その翌朝。轟音とともに床が波打ち、工場も家屋もすべてが崩れた。そして雅也は、父の借金をネタに保険金をむしりとろうとしていた叔父の俊郎をどさくさに紛れて殺してしまう。
 冷たい床の体育館、配られたわずかばかりの食糧を巡っての諍い。極限に追いつめられながらも、雅也の生き方は常識的で落ち着いていた。彼が俊郎を殺したのはほんのわずか、彼のこころの中に生じた異常な瞬間であったかのように。しかし、叔父の俊郎を殺したことによって、雅也の人生はすべてが狂い始める。殺人の現場を目撃しながらも口をつぐみ、彼の味方となる美冬。けれど彼女は、己の目的達成のためには手段を選ばぬ強引さと残酷さを兼ね備えた存在だった。東京に出てきたふたりの周囲で次々に起こる事件。まったく違うもののように見えながら、すべての事件に同じ女性が関わっていることに気づいた刑事の加藤は、独自の捜査を開始する――。
 こういうの、なんていうんでしょう。犯罪小説? 謎があってそれを解決するわけでもないし、取り立てて犯人が捕まってどうこう、ということもない。そこで、
「途中まではいいんだけどさあ、ラストがほら、なんての、あっけないっていうか、これで終わりかよ! みたいな」
 という評をくれた知人がいるが、確かにそう感じる人もいるかなあ…と、思う。
 ただ、「世の中ってこういうものなんだよね」と思って読むと、ある意味でリアルではある。世の中ってすっぱり割り切れたり、ここですべて解決、っていう終わりがあったりすることのほうが少ないのだから。割り切れない思いを抱えながら、それでも日々は流れてゆく。



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