「人の心も科学です。とてつもなく奥深い」
「操縦る」(「ガリレオの苦悩」所収) 東野圭吾 文藝春秋
かつて帝都大で助教授として教鞭をとっていた友永幸正がかつての教え子たちを家に招待した夜、幸正の家の離れで、幸正の息子邦宏が何者かに日本刀のようなもので刺殺されたあと、放火された。捜査にあたった草薙と内海薫は、捜査に訪れた友永邸で思いもかけない人物と遭遇する。ガリレオこと湯川も友永のかつての教え子として会食に参加していたのだ。捜査が進展するにつれ、邦宏の放埓な生活部に苦しめられていた友永の姿が浮かび上がってくるが、梗塞の後遺症で車椅子生活を強いられている幸正に、離れにいる邦宏を殺せるはずもない。しかし湯川はかつて『メタルの魔術師』と呼ばれた恩師の研究を忘れてはいなかった――
「探偵ガリレオ」の新刊である。ところで、上記のあらすじを読んで気づいた人もいるかと思うが……この短編集のいくつかはすでにテレビ放映されて知っているストーリーだったりするし、これまで小説には登場していなかった内海薫もちゃんと捜査員のひとりとして加わっている。で、だからといってドラマから生まれた薫が小説にも登場、と思ってはいけない。この小説の初出は2006年で、ドラマは2007年放送だからだ(もしかすると企画段階で出すことになった薫を小説に出した、ということはあると思うが)。
無表情で人間的にやや難があるのではと思わせる湯川准教授だが、この短編集に収められた湯川の姿にはどこか人間味が感じられて面白い。長編より短編のほうが好き、という人はとても満足できる一冊に仕上がっていると思うし、短編より長編のほうが好き、という人でも、短編のおもしろさに目覚める一冊になると思う。オススメ。
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