いつもの宵と同じく、鳩村婦人の申し分のない夕食で満ち足りた気分にひたり、私は、二子玉川221番地B、ベーカー・ヴィレッジの部屋で我が同居人のバイオリンの調べに耳を傾けていた。
「緋色の紛糾」 柄刀一(「贋作館事件」所収) 原書房
8人の作家が思い思いに好きな作品の「贋作」を書いた中・短編集である。ミス・マープルあり、ルパンあり。それにしたって、シャーロック・ホームズとワトソンが「二子玉川」に住んでいるこの作品の出だしこそ、笑えるものはないだろう(いや、ほとんどの作品があまりにも真面目に「贋作」してて、パロディといった域を超えた力の入りようなのだが。元の作品を読んでいればなおさら、知らなくても、十分に楽しめる話ばかりである。しかも、最後にはこの「贋作館事件」の贋作というおまけまでつく。
それにしたって……――
「典型的スタイルを持つ作品の、そのスタイルだけを公式のように取り出した時、多くの人に笑いが生まれるのはなぜだろう。その公式を知ってから、公式の元になった作品を読むと妙な楽しさが付け加えられるのはなぜだろう」
という文章には深く頷き、そして大笑いしました、「ありふれた客:小さな黒後家蜘蛛の会(斉藤肇)」。黒後家ファンには読んでもらいたい掌編です。たぶん、今後「黒後家蜘蛛の会」を読むときには、きっとこれを思い出して笑ってしまうと思う。奥付の贋作(?)という凝りようも見事。
肩の力を抜いて、笑って楽しんでもらいたい。
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