読んでください。
夜中に、一人で。
「眼球綺譚」(「眼球綺譚」所収)綾辻行人 集英社
出版社に勤める「わたし」の元に、大学時代のサークルの後輩、倉橋実から薄い冊子が送られてくる。「眼球綺譚」と書かれたそれは、奇妙な小説のようなものだった。1970年ごろを舞台としたその小説は、ある一人の男と、眼球にとりつかれた女との出会いを描いた薄気味の悪いものだった。いったいなぜ倉橋はこのようなものを送ってきたのか……
短編集。
一編一編につながりはなく、すべて別々の話を書いたものなのだが、ただひとつ、登場人物だけが共通している。咲谷由伊。ときには若き妻として、ときには女子大生として。さまざまな姿、さまざまな立場で出てくる女性。性格も違えば、おそらく容姿も違うだろう。共通しているのは名前だけだ。とはいえ、本当に彼女たちは別人なのだろうか――
作者はあとがきの中で、
「それぞれの由伊の間には、何ら有機的なつながりはないようです。深読みされる必要はありません――と、さしあたりここには記しておくことにします」
と書いている。
そんなこといわれれば、余計深読みしたくなるのが人情というもの。さりげなく散りばめられた共通点を探し、さまざまな顔をもつ由伊を追って、読みすすめてもらいたい。
しかし、個人的には「呼子池の怪魚」の最後がよかったかな、と思うあたり、わたしはやっぱり後味のよい作品が好きなようである。雰囲気は「特別料理」とかも好きなんですけどね……
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