「だから、うまく玩具修理者をだまして、道雄のことをおもちゃだと思い込ませれば、修理してくれると思ったの」
「玩具修理者」小林泰三 角川ホラー文庫
夏の午後7時ごろ、喫茶店でふたりの男女が話をしている。男は、いつも彼女が昼間のあいだだけしているサングラスの理由が知りたくて話をはじめただけだった。しかし、彼女の話は思いもかけない方向へと進んでゆく。
幼いころ、年の離れた小さな弟をおぶっていた少女は、真夏の暑さの中で転び、弟を死なせてしまう。色が変わり、臭いだし、だらだらと汁を流している弟の死体を背にしたまま、少女はなんとかして事態を誤魔化そうとあてどもなく歩き、そこで玩具修理者のことを思い出す。性別も年齢も国籍も不明の玩具修理者は、何でも直してくれることで子どもたちの間では有名だった。一度ぜんぶをばらばらにしてから、奇妙なかけ声とともにすべての玩具を直してくれる玩具修理者。その人ならきっと、弟のことも直してくれるに違いない……
奇妙な物語。ホラーというのとは少し違うと思う(描写はやや気持ち悪いところはあるけれど)。現実とはずれたところに確かにある子どもの真実。けれどそれが大人になっても続いている。説明などなく、不可解なものを不可解なままにすべて受け入れている女の話に引き込まれたとき、ふとこの場の現実そのものが色を変える。同時収録された「酔歩する男」なども、どこまでが真実でどこまでが妄想なのかがわからなくなる瞬間の恐怖というのがよく出ている。
ホラー文庫に所収されてはいるが、ホラーが苦手な人にもぜひ読んでもらいたい一品。
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