「人を殺すことがどんどん簡単になってきてる。おれはそれがちょっと怖い」
           
「ギャングスター」 ロレンゾ・カルカテラ(田口俊樹訳) 新潮文庫

 彼、アンジェロが生まれる前、父親のパオリーノは金の代わりにカッモラ党員(ナポリのマフィア)連れ去られた最愛の息子カルロを、党員にしないために、銃で撃ち殺した。貧しい人間から搾取するクズにはなってほしくなかったからだ。しかし、そのせいでパオリーノはナポリにいることができなくなり、身重の妻とともにアメリカへと密航する。
 炎上する船の中で生れ落ちたアンジェロは、妻を亡くし、ひたすらに働いてもなお貧しい父親に育てられた、弱い子どもだった。しかし七歳のとき、アイダ・ザ・グース、地元の何人ものギャングの親分の愛人であり、窃盗団の首領でもあった強くて美しい女性にいじめられているところを助けられてから、アンジェロの生活は一変する。彼は貧しさに泣く弱い存在から、勝者に、力と金と権力を持つギャングスターへの道を歩み始めるのだ。それはもちろん、父パオリーノの願いとは最も遠い存在であった。
 物語は、老いて死にかけたアンジェロが横たわる病院のベッド脇で、「私」ゲイブと、アンジェロの知りあいだという女性メアリーとの会話で進められる。
 愛した人を失い、そのために誰も愛することがなくなってしまったアンジェロ。彼のギャングスターとしての一生がゲイブによってあざやかに描き出され、そして思いがけず、最後の最後、メアリーの視点から見たアンジェロによって切ない真実が明らかになる。
 上下巻があっというまに感じられることだろう。「スリーパーズ」の著者である……といったら、もっと読みたくなる人が増えるだろうか?


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