「……夜に喰われるだけさ」
              
「ガダラの豚」  中島らも  実業之日本社

 非常に優れているのか、たんにぼけているのかわからないような隆心師の護摩行が失敗に終わるプロローグから始まる。しかし、実際の物語のはじまりは、ある超能力番組で顔をあわせた面々、呪術師の村でのフィールドワークで知られた大生部、その助手の道満、スプーン曲げ青年の清川、超能力破りで知られた奇術師ミスター・ミラクルの、どこか噛みあっていないような、TV向けに作られているようなやりとりにこそあるのだ。つまり、超能力はいったい本当にあるのか、と、そのことである。
 視聴率稼ぎの企画が大生部の積年の願いの半分をかなえ、大生部一家と道満、清川らが、ケニアへとむかう。目的地は13を意味する呪術師の村、クミナタトゥ。しかし、異変が徐々に感じられるようになってくる。夜毎訪れる不気味な夢。クミナタトゥに住む呪術師たちもが恐れるバキリとはいったい何ものか。ある夜、みずからの力を誇示するために、村の入り口にある木の上に牛を串刺しにしたバキリ。けれど、そのことを問うた大生部たちに、それはヘリコプターを使ったのだとあっさり答えるしたたかさをも兼ね備える。彼には超能力が、実効力のある呪術をつかう能力が、はたしてあるのだろうか。
 ホラーか。といわれれば、そうかもしれないと思える部分も多々ある。顔を殺ぎ落とされ、後頭部に貼りつけられた状態で死んでいる女。幼虫が身体の中で孵化し、皮膚の上に浮き上がってくるという描写。しかし、どこかとぼけた味わいがあるのも事実で、大生部一家のやりとりなどは思わずくすりと笑わせられる。家族が再生する物語である、といわれても納得のいく感動シーンもある。
 とにかく、おもしろい話だ、絶対はずれじゃない、ということを信じて読んでもらうしかない、と思う。オススメの一冊(…それにしても、どうして麻薬所持とかでつかまっちゃうかなあ、らもさん)。



オススメ本リストへ