四十六年も生きているのに、いまだにスマートに恋を終わらせることができない。
「FUTON」中島京子 講談社文庫
アメリカの大学で近代日本文学を講じるデイブ・マッコーリー。彼の研究テーマは田山花袋『蒲団』。そしてかくいうデイブも、いま、日系美人の女子学生、エミ・クラカワと恋愛の真っ最中である。しかし、デイブの知らないところで、エミは日本からの留学生コンドウ・ユウキともつきあっている。しかもエミは、デイブにむかって、ミュージシャン志望のユウキのために、コミュニティカレッジの推薦状を書いてくれといってくる。そもそもミュージシャン志望のやつがL.AでもN.Yでもないこんなところで何ができるのかとも思うし、英語もろくに話せないやつのために(エミに頼まれたからといって)推薦状など書いてやるつもりもないデイブ。そもそも、エミとユウキはどういう付き合いなんだ……と嫉妬にかられる隙もあらばこそ、デイブのやきもちに怒ったエミは、ユウキとともに、日本へ行ってしまう。東京で行われる学会にかこつけて、デイブはエミの祖父が経営する店で待ち伏せすることにするのだが……
物語は、そのつもりがなかったのに、いつのまにか若い女子大生に翻弄されるデイブを描く一方で、日本文学研究者であるデイブの手による『蒲団』の焼き直し小説『蒲団の打ち直し』(返すがえすもすごいタイトルだ)、エミの曽祖父ウメキチと、その介護をするイズミを描いて進められる。それぞれに仕込まれる三角関係。翻弄される中年男。
『蒲団の打ち直し』だけをまとめて読んでもおもしろい(笑)。こんなスゴイものが組み入れられているなんて、それだけで贅沢な小説だともいえる。「変態の先生が、弟子の寝てたフトンに顔を埋めて泣く話」というレジュメでは味わえなかったおもしろさがある……『蒲団』ってどんな話だったっけか。
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