「寒いっていったじゃないか!」とフランキー。「それにちょっと変わってるって。たとえば空気がないとかさ。デューン・バギーがほしいんだったら、自分でとってきてもらわないとな」
                
「穴の中の穴」(「ふたりジャネット」所収)テリー・ビッスン(中村融編訳) 河出書房新社

 「おれ」、アーヴィンは、壊れたヴォルヴォの部品を格安で探しているうち、<穴>と呼ばれる場所でヴォルヴォ専門の廃車置場をやっているフランキーを紹介された。<穴>の近くは、いかがわしげな月の石が売られていたり、人が住んでいる地下鉄車両があったりと、さびれた風景この上ないが、フランキーの<穴>は確かにヴォルヴォばかりだった。いや、そんな言葉では足りない。あり得ないほどにヴォルヴォの部品が揃っていた。そこで、おれは、友人のウィルスン・ウーにもそのことを教えてやろうとするが、<穴>に来たウーが発見したのはヴォルヴォだけではなかった。<穴>はどうやら月につながっており、フランキーたちはそこを好き勝手に行き来していたのだ。そして、月面上にNASAが使用していた月面車を発見したウーは……
 短編集。
 表題作の「ふたりジャネット」は、南部の小さな町に作家たちが大挙して住み着くというあり得ない状況を書いた物語だが、それをいうなら、イギリスが航海に出る「英国航行中」や、題名そのままの「熊が火を発見する」など、ここに収められているのはすべてあり得ない物語。とはいえ、「おれ」と万能中国人ウィルスン・ウーとの関わりを描いた三篇は、とんでもないというだけでなく、それに科学的な風味をつけた点で突出している。数学、物理学、法律といったものに詳しいだけでなく、パン職人やらその他多くの職業についていた過去も持つウーの経歴の詳細は実際に読んでいただくとして……小難しいSFは嫌いだけど、ホラ話SFなら好き、という方(たとえばラファティが好きな人とか)には絶対にオススメの作品集。個人的には、いかがわしげな月の石が本物だったくだりで、思わず大笑い。空気がないのはちょっと変わってるどころじゃないだろう! とか、読みながらツッコミをいれたくなってしまうし。理屈抜きで楽しめます。



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