もちろんそれが、この世でいちばん不思議なひと触れだった。
「不思議のひと触れ」(「不思議のひと触れ」所収) シオドア・スタージョン(大森望編) 河出書房新社
月の出に海で出会ったふたりの男女。互いに待ちあわせの相手と間違え、気楽な罵りことばの応酬からふと気づけば、そこにいたのは見知らぬ相手。気まずい沈黙から立ち直ったふたりがぽつぽつと語り始めたのは、待ち合わせの相手――人魚との出会いだった。
短編集。
オチの見事な「高額保険」や、意外性のある「閉所恐怖症」、ユーモアたっぷりの「裏庭の神様」など、バラエティにとんだ作品が収められている。どれも見事なのだが、わたしが他のところで好きだといっていた「孤独の円盤」や「不思議のひと触れ」など、人と人との出会いを描いた作品がいいな、と思ってしまうのはセンチメンタルにすぎるだろうか。そんな風に考えると、この作品集に収められたのはスタージョン風恋愛小説ともとれる。愛する人がいなければさびしく、愛する人さえいればしあわせになれる。単純だけれど、大切なこと。
個人的に、最後のオチが怖いぞ、と思ったのは「タンディの物語」。兄のロビンは長男として力も強く、妹のノエルは「うちのかわいいベイビー」として可愛がられている。この不公平に断固として声をあげたタンディは、他人をいらいらむしゃくしゃさせる天賦の才を発揮し、家庭でも幼稚園でもお荷物となるのだが、ちょうどそのころ、宇宙ではある物体が生き延びるために分裂し、足下の巨大惑星に落ちていこうとしていた――
小さな少女の物語がとつぜん宇宙レベルのスケールになるところがすごい。
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