頭の中に電気ショックが走ったようだった。理論や理屈とはまるで無関係な、絶対的な確信。もっとはるかに原初的なもの。純粋に動物的な本能のひらめき。
“きみはぼくと同類だ”
「復讐の子」パトリック・レドモンド(高山祥子訳)新潮文庫
偏狭な考えの残る狭い町で、ロニー・シドニーは私生児として育った。冷たく意地悪なヴェラおばさんに、母のアンナがこき使われるのを眺めながら。それでも、彼は才能に恵まれた美しい少年へと育った。「ロニー・サンシャイン」。それがアンナが彼を呼ぶときの名前であり、アンナとロニーはふたりだけの世界で時間を過ごしていた。しかしロニーをさらに上の学校にやるために、アンナはロニーと別れて遠い町で家政婦として働くことになる。遠い町の母親と文通し、母からの愛を全身に受けてのびのびと育ったように見えたロニーだが、彼には母にも隠している大きな秘密があった。
一方、スーザン・ラムジーは恵まれた家庭に生まれた勝気な少女だった。不正を許さず、神経衰弱になった母親を守るべく強くあろうとしたスーザンは、父親から「スージー・スパークル」と呼ばれている。父にとって、スーザンはいつでも星のように輝く少女であったのだ。しかし、その父が突然病死してしまった。残されたふたりを支えてくれた弁護士、アンドリューと母の再婚によって、スーザンの生活は一変する。表面的には優しく紳士的なアンドリューは、スーザンへの性的虐待を繰り返す悪魔のような男だった。
数年がすぎ、アンナの再婚によってスーザンの通う学校へと転校してきたロニーがスーザンと出会う。美しい少年と美しい少女の出会い。虐げられ、苦痛に反抗しようとしている少女と、苦痛をなくす術を知っている少年との出会い。ふたりはアンドリュー殺害の計画を立て始める。
物語の半ばにくるまで、ロニーとスーザンは出会うことがない。彼らの周囲にいる人々の一部が重なり合っているだけで、生活環境も何もかもまるで違うからだ。そして出会った途端、彼らは惹かれあい、ともに殺害計画を練り、実行し、そこでもう何もかもが終わり、あとはふたりで黙って幸福な生活を過ごすだけ……ではないところが、この物語の要。実際、本当の物語は、実はアンドリュー殺害計画の後に始まるといってもよい。ロニーとスーザンはとてもよく似ているが、まるで違う部分もある。そのことが明らかになる後半部分からのスピードアップぶりが見事。
訳がとっつきづらいと感じられる部分もあるし、最後にたどり着くまでが長い気もしないでもないのだが、とにかく最後の最後のあれよあれよという展開はすごい。
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