もともと、彼は下品な逸話の宝庫のような男だった。しかも、時と場合に応じて、その場に最もふさわしく、かつ最も趣味の悪い逸話を披露できるという特技の持ち主でもある。
  「クリスマスのフロスト」R・D・ウィングフィールド(芹澤恵訳)
                         
創元推理文庫

 ひとつの事件が起こり、それを解決する。それが大抵の推理小説のパターンだと思う。だが、この話は違う。仕事中毒のフロストの一日は、いつ終わるとも知れない耐久レースのような一日なのだ。次から次に出てくる死体、次から次に起こる犯罪。なにせ、彼には、まるで反応を引き起こすパワーが備わっているかのようなのだから。
 練り上げられた構想の上に成り立つ謎解きと、魅力的な(というと語弊があるかもしれないが)主人公。ともかくさすが1994年度週刊文春ミステリーベスト10の第1位に輝いただけのことはある。
 推理の冴も見事なのだが、フロストの口から飛び出す下品な逸話(下ネタというわけではない)の悪趣味ぶりもまた、見事としかいいようがないほどすばらしい。警察官としての職務をまっとうするのに役に立つ、実際的な話をしてほしいと頼まれて、公用車の維持費をちょろまかす方法を解説してしまうフロストなど、彼にまつわる出来事はすべてが皮肉なユーモアに満ちている。
 とはいえ……そんなフロストが多くの制服警官に慕われるのにもまた、理由がある(それはおそらく、二冊目の「フロスト日和」を読んでもらえれば、もっとよくわかる)。
 職務遂行に燃えるだけの刑事や、正義感にあふれる探偵ばかりを見飽きたときには、ぜひおすすめだ。



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